
今回は私の愛するUAD-2プラグインのなかから、Empirical Labs EL8 Distressorをご紹介。
目次
そもそもどんなコンプ?
1993年発売という、比較的近年のコンプレッサー。
EL8という機種名よりも、「Distressor」という風に呼ばれることが多いです。
EL8のほかに、1176のレシオ複数押しモードの再現である「British Mode」を追加した「EL8X」という後継機種も存在。17万円程度で購入可能で、本格的な音楽制作ができるスタジオには大抵導入されています。
あらゆるコンプのサウンドが出せる多機能コンプ
本機自体の音というよりは偶数時と奇数時の倍音付加と、アタック/リリース/レシオの設定次第で、LA-2Aっぽくもなり、1176っぽくもなり、Fairchildっぽくもなる。
また、検出回路に低域をフィルターして過剰なリダクションを抑える「サイドチェインフィルター」、ステレオリンクといった、今ではプラグインとしてもよく見られる機能をいち早く搭載。
クリーンからドライブまであらゆるサウンドを提供する「多機能コンプ」として一躍話題に。
使用感としても、-8dB以上のガッツリとしたリダクションをかけても「え、そんな削ってる??」と思ってしまうほどにクリーン。
セッティングによるとはいえ、大変扱いやすいコンプという印象。
録音時のモニター用コンプとしては、1176をはじめとする古くからの名機にも匹敵する使用実績を誇っています。
Neumann m49-RFT Lorenz真空管プリアンプ-EL8というシグナルチェーンで録音されています
コントロール解説
RATIOセクション
RATIOコントロールは、圧縮比率だけでなくそのKneeも関連して制御しています。
RATIO | コンプレッション |
---|---|
1:1 | コンプレッションはされず、サチュレーションのみを使う場合に使用。 |
2:1と3:1 | 穏やかなKneeで、知覚させない程度にコンプレッションしたい場合 |
4:1と6:1 | 中程度のコンプレッション。通常、この程度のRATIOがスタートポイント |
10:1 | 光学コンプのリダクションをシミュレートするカーブ。リリースタイムにも影響 |
20:1とNUKE | ハードリミッティング。ドラムのルームやパラレルコンプ用 |
DETECTORセクション
DETECTORセクションにある3つのLEDで示される、低域や高中域への反応を制御するセクション。
これにより、検出の仕方や圧縮後のサウンドに影響が出ます。
特徴的なのはステレオリンクモードで、実機では普通にステレオリンクとして機能しますが、リンクがオンのままサイドチェインI/Oに何も接続されていない場合でも、スレッショルドに影響があり、ハーモニックディストーションが増加します。
UADプラグインではこの状態も再現されています。
モード、ランプの点灯状態 | 動作 |
---|---|
ノーマル/DETECTORセクション全消灯 | ノーマルの検出動作 |
ハイパスのみ/HP点灯 | 100Hzに6dB/octのハイパス |
バンドエンファシス/波っぽいLED点灯 | 6kHzをブースト、高中域の痛さを抑える |
ハイパス&エンファシス/HPと波両点灯 | ハイパスとエンファシスが共に有効に |
ステレオリンク/Link点灯 | ステレオリンク、ディストーションが増加する |
ハイパス&リンク/HPとLink点灯 | ハイパスフィルターとリンク機能が共に有効になる |
エンファシス&リンク/波LEDとLink点灯 | エンファシスとリンク機能が共に有効になる |
HP&エンファシス&リンク/DETECTOR全点灯 | 全モードが有効になる |
AUDIO
聴感上の周波数バランスとサチュレーションを制御。本機の肝となる部分の一つ!(どれも肝ですけどね)
モード | 動作 |
---|---|
1.Normal | 特別な処理なし |
2.Hipass | 80Hzに18dB/octの鋭いハイパスフィルターを適用 |
3.Dist2 | 真空管的なサウンド要素、偶数時倍音強調をアクティブにする |
4.Hipass&Dist2 | ハイパスとDist2モードを共にアクティブにする |
5.Dist3 | テープ的なサウンド要素、奇数時倍音強調をアクティブにする |
6.Hipass&Dist3 | ハイパスとDist3モードを共にアクティブにする |
メーター
上部の「GAIN REDUCTION」はその文字通りリダクションしている量。
その下、「RATIO」の上にあるのはハーモニックディストーションの付与量を示し、「1% THD」は原音の1%を超える増幅が起こっていることを示し、「REDLINE」は原音の3%を超える増幅が起こってることを示します。
コントロールノブ
実機のノブは非常に回しやすく、ここの評判も大変にいいです(笑)
ラベル | 動作 |
---|---|
INPUT | インプットのゲインとスレッショルド/つまりリダクション量を同時に変更する |
ATTACK | 圧縮の発生時間を可変 50マイクロ秒から30ミリ秒 |
RELEASE | 圧縮の終了時間を可変0.05秒から3.5秒ただしRATIO「10:1」を除く |
OUTPUT | アウトプットの出力音量 インプットを上げたならこれでバランスをとる |
HRとMIX
インプット左の「HR(ヘッドルーム)」ノブはプラグインオリジナル機能で、インプットとは関係なしに増幅と圧縮の特性を可変できるもの。右に回すほど「カラーが付きやすく」なります。
アウトプット右の「MIX」はこちらもプラグインオリジナル、パラレルコンプレッション用にドライ信号を混ぜる機能です。